
こんにちは。AX研究室のRobert Hubaczです。
本稿では、Flow Matching(フローマッチング)という生成AIの考え方が、どのように反応器内の流体の流れの予測に応用できるのかを、段階的に説明します。
生成AIモデルというと、今日では主に文章を書いたり画像を作成したりするものとして知られています。しかし最近では、同じような手法が工学の分野にもますます応用されるようになっています。従来のシミュレーションは高い精度を期待できる一方、計算資源や専門的な設定を必要とするため、そのような場面で役立つ可能性があります。
そのよい例が、化学反応器内における液体または気体の流れです。従来のCFDシミュレーションには何時間もかかることがあります。AIモデルは、あらかじめそのようなシミュレーション結果を使って学習しておけば、将来的には反応器内部で何が起きているのかをより速く推定できるかもしれません。
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反応器の内部で起きていることをどう表すか?
反応器では、化学反応に気体または液体の流れが伴うことが一般的です。技術的な文章では、このように流れる物質を一般に流体と呼びます。以下では簡単のため、この言葉を使います。
流体が反応器の中を移動するとき、その内部の各場所について、いくつかの量を表すことができます。流れの速さと方向、温度、そして圧力です。これらを合わせると、ある瞬間における流体の状態を全体として描写できます。本稿ではこれを一般に流れ場と呼びますが、技術的には速度場、温度場、圧力場など、いくつかの関連する場を含むことがあります。
従来、流れ場はシミュレーションによって計算されてきました。反応器の内部を数百万個の小さなセルに分割し、それぞれに物理法則を適用し、流体の状態が時間とともにどのように変化するかを一歩ずつ計算します。これがまさに、CFD(数値流体力学、Computational Fluid Dynamics)の仕組みです。これは正確な手法ですが、条件によっては計算負荷が大きくなります。
そのため、数時間ではなく数秒で、反応器内の流体の状態について似たような情報を提供できるモデルを作ることには関心が集まっています。可能なアプローチの一つが、生成AIモデルを利用することです。このようなモデルは、確かに長時間の学習を必要としますが、学習が完了した後は非常に高速に動作します。
生成モデルとは何か?
生成モデルとは、以前に学習したことをもとに、何かについて新しく現実的な例を作り出せるコンピュータープログラムです。おそらく、文章を生成するChatGPTや、画像を作成するStable Diffusionのようなモデルの例はすでにご存じでしょう。これらこそが生成モデルです。生成モデルは、現実的な文章や画像がどのようなものかを何百万もの例から学習し、その後、同じ種類の新しいコンテンツを作成できるようになります。
モデルが現実的なコンテンツを生成できるようになる方法はたくさんあります。その一つがFlow Matchingで、画像生成などに使われているアプローチです。
以下ではまず Flow Matching(フローマッチング)の基本を説明し、その後、物理場を扱うための Functional Flow Matching(関数空間フローマッチング)、さらにセンサー測定値に合わせて場を推定する Operator Flow Matching(演算子フローマッチング)へと話を進めます。
Flow Matchingの考え方
Flow Matchingは、最も簡単には、混沌とした状態から整った結果へ向かう道筋をモデルに学習させる方法として理解できます。この道の出発点にはランダムなノイズがあります。終点には、たとえば現実的な画像のような、学習データ中の本物の例があります。その間には、純粋なノイズではもうないが、まだ完成した画像でもない、多くの中間状態を想像できます。
モデルは、この道をどのように進むかを学習します。さまざまな中間状態に対して、次にどちらの方向へ変化すべきか、つまり現在の状態をどう動かせば本物のデータに少し近づくのかを学ぶ必要があります。これにより、学習後には新しいランダムなノイズから始めて、それを一歩ずつ現実的な結果へと変換できるようになります。
この文脈では、「flow」という言葉は紛らわしいかもしれません。特に反応器内の流れについての文章ではそうです。ここで言うのは気体や液体の流れではなく、画像を生成する過程で、ある状態から別の状態へ滑らかに移っていくことです。
Flow Matchingは画像ではうまく機能しますが、物理現象を記述する場合には追加の問題が生じます。結果が普通の画像ではないからです。
問題:流れ場は普通の画像ではない
一見すると、Flow Matchingが画像生成でうまく機能するなら、反応器内の流れ場も同じように扱えるように思えるかもしれません。つまり、温度、圧力、または速度の分布を表す画像として扱うということです。この比較は最初の理解には役立ちますが、すぐに不十分であることが分かります。
通常のデジタル画像には、たとえば256×256のような固定されたピクセルの格子があります。一方、反応器の解析で関心があるのは、その内部の任意の場所における流速、温度、圧力といった値です。画像上に記録された点だけではありません。
したがって、このような場は関数として考えることができます。反応器内の一点を選ぶと、その関数が、そこにおける温度、圧力、または流速を教えてくれるという考え方です。
つまり、流れの場合、私たちはシミュレーション結果に似た画像だけを生成したいわけではありません。生成したいのは場全体、すなわち反応器内のさまざまな場所で何が起きているかを表す関数です。画像のように決まったピクセルだけに値があるのではなく、反応器の中の任意の場所について値を知りたい、ということです。まさにこの必要性から、Functional Flow Matchingのような手法が生まれています。
Functional Flow Matching:アイデアを関数空間へ移す
Functional Flow Matchingは、Flow Matchingのアイデアを画像から関数へと移します。
直感は似ています。古典的なFlow Matchingでは、モデルはランダムなノイズから現実的な画像へ向かう道筋を学習します。Functional Flow Matchingでは、この道筋はランダムな関数から、現実的な流れ場を表す関数へと向かいます。
そのため、結果はあらかじめ決められた解像度の一枚の画像にとどまりません。場そのものの記述であり、後から必要な場所で値を読み取ることができます。いくつかの選ばれた点でも、反応器全体の体積内でも、点を密に配置しても疎に配置しても読み取ることができます。
実際には、Functional Flow Matchingには、関数を扱うように調整されたニューラルネットワークが必要です。そのようなアーキテクチャの例がニューラルオペレーターであり、その中にはFourier Neural Operatorなどがあります。
このような仕組みによって、モデルは固定画素の画像に縛られず、場全体をより柔軟に扱えるようになります。しかし、まだ足りないものがあります。
ギャップ:生成は、具体的なケースの予測とはまだ違う
ここで重要なギャップがあります。現実的に見える流れ場を生成できることと、現在の反応器の状態を正しく推定できることは同じではありません。
Functional Flow Matchingは、現実的な物理場を生成できます。これは、速度、温度、圧力の場が通常どのような形になるのかを学習したモデルとして考えることができます。
そのため、このようなモデルに「もっともらしい流れ場を見せて」と頼むことができます。モデルは一つの可能な例を生成します。もう一度尋ねれば、別のものが得られます。三度目に尋ねれば、さらに別のものが得られます。それぞれは現実的に見えるかもしれません。なぜなら、どれもモデルがデータから学習したパターンに合っているからです。
問題は、現実的な場が現在のセンサーの読み取り値に合っているとは限らないことです。実際の工学では、技術者が探しているのは、任意の正しく見える場ではなく、具体的な測定値と一致する場です。
数千件の現実的な反応器シミュレーションのライブラリを想像してみてください。その多くは正しく見えるかもしれません。しかし、稼働中の反応器のセンサーが特定の場所で特定の温度を示している場合、必要なのはその読み取り値と一致する場だけです。
Functional Flow Matchingは、この方向へ拡張することができます。このタイプのモデルは、追加情報を考慮した条件付きサンプルを生成できます。これは重要です。なぜなら、この手法が「盲目的な」生成だけに限定されないことを意味するからです。
それでも、FFMの基本的な役割は生成的なものです。モデルは、学習データに似た現実的な関数を作成することを学びます。数個のまばらな測定値から流れ場全体を再構成したい場合には、まさにその課題のために設計されたアプローチが必要です。
そこで登場するのがOperator Flow Matchingです。
Operator Flow Matching:少数の測定値から状況全体の像へ
この節では、Operator Flow Matchingを、少数の測定値から反応器全体における温度や流れの速さの分布を推定するのに役立つ可能性のある考え方として紹介します。
ただし、ここで説明しているのは主に研究段階のアプローチであり、実際の反応器にそのまま使える完成した予測ツールという意味ではありません。
Operator Flow Matchingは、いくつかの測定点を見て、「測定していない場所では何が起きている可能性があるか?」を推定しようとするモデルとして想像できます。
これは重要です。なぜなら、実際にはすべてを測定することはめったにないからです。通常、使えるのは数個のセンサーだけです。たとえば反応器では、数か所の温度は分かっていても、その間で正確に何が起きているかは分かりません。
Operator Flow Matchingは、正しい答えが一つだけ存在するとは仮定しません。その代わりに、利用可能な測定値に合う場全体の候補を複数生成することを目指します。
それらの候補が互いに似ていれば、モデルは結果に対する確信度が高いということです。大きく異なっていれば、測定値が少なすぎて、状況を多くの方法で再現できるということです。
例:
反応器内に5つの温度センサーがあります。それぞれが具体的な読み取り値を示しています。もちろん、5つの測定値だけで反応器全体を正確に再現できるわけではありませんが、モデルはこの5つの値を手がかりにして、反応器全体における可能な温度マップの候補を生成します。
これにより、予測された温度分布だけでなく、結果の不確実性が高い場所も見ることができます。
簡単に言うと、次のように機能します。
- モデルはまず、たとえばシミュレーションデータから、似たような場が通常どのようなものかを学習します。
- いくつかの現在の測定値を受け取ります。
- それらの測定値と合うような、場全体の候補を生成します。
- 結果がより確かである場所と、そうでない場所を示します。
このような手法は、高速な補助ツールとして役立つ可能性があります。物理法則や従来のCFDシミュレーションに取って代わるものではありませんが、点ごとの測定値が数個しかない場合でも、系全体で何が起きているかを素早く推定する助けになります。
関連研究では、Operator Flow Matchingが、限られた観測情報から関数や、温度場・速度場のような場全体を推定するための有望な枠組みになり得ることが示されています。そのため、この考え方は、工学分野における補助的な推定手法としても興味深いものになり得ます。
要するに、Operator Flow Matchingは単に「現実的な場をどう生成するか?」と問うのではなく、「今まさに測定した内容に合う、現実的な場をどう生成するか?」と問うのです。
手法間の簡単な違い
最も簡単にまとめると、次のようになります。
Flow Matchingは、混沌とした状態から現実的な画像を作る方法を学習できるようにします。
Functional Flow Matchingは、それを画像だけでなく、温度、圧力、流速のような物理場全体に対して行えるようにします。
Operator Flow Matchingはさらに一歩進み、現実的に見えるだけでなく、センサーからの具体的な測定値にも合う場の候補を作ることを目指します。
つまり:
- Flow Matching:「現実的な画像を作れ」。
- Functional Flow Matching:「現実的な流れ場を作れ」。
- Operator Flow Matching:「私たちが測定した内容と一致する、現実的な流れ場の候補を作れ」。
AIを使って反応器をモデル化したい場合、これは何を意味するのか
生成AIを活用したツールを実際に使うには、まず学習用の大量のデータが必要です。たとえば、過去の流れに関するコンピューターシミュレーションの結果や、実際の反応器から得られた測定データなどが考えられます。このようなデータを集めることは、この分野における大きな課題の一つです。
しかし、ツールのもとになるモデルの学習が完了すれば、反応器全体で液体や気体がどのように流れているかをすばやく推定できる可能性があります。そのためには、稼働中の装置のセンサーから得られる少数の測定値が手がかりになる可能性があります。さらに、AIモデルは一つの可能な答えだけでなく、複数の可能なシナリオを示し、その中でどれがより確かで、どれがより不確かであるかを示すこともできます。
たとえば、プロセスエンジニアは「この反応器のどの場所で流れが非常に弱い、またはほとんど止まっているのか」と尋ねることができます。毎回、詳細なコンピューターシミュレーションを実行する前に、まず状況の全体像をすばやく把握できます。
もちろん、このようなAIツールは従来のシミュレーションを完全に置き換えるものではありません。反応器の形状が異なる場合や、モデルが学習した条件とは異なる条件で動作する場合、結果の精度は低くなる可能性があります。そのため、このような結果は常に確認する必要があります。このツールは、詳細な解析の代替ではなく、状況をすばやく評価するための支援として扱うべきです。
言い換えれば、この仕組みの価値は、AIが「魔法のように物理を予測する」ことにあるのではありません。重要なのは、AIが過去のシミュレーションや測定データを現在のセンサーの読み取り値と結びつけることで、エンジニアが反応器の中で何が起きているのかをより速く理解できるようにすることです。
日本語でさらに読む
Flow Matchingについて日本語でさらに読みたい方には、以下の記事も参考になります。
参考文献
- Lipman, Y., Chen, R. T. Q., Ben-Hamu, H., Nickel, M., Le, M., “Flow Matching for Generative Modeling”, ICLR, 2023, arXiv:2210.02747.
- Kerrigan, G., Migliorini, G., Smyth, P., “Functional Flow Matching”, AISTATS, PMLR Vol.238, pp.3934–3942, 2024, PMLR.
- Shi, Y., Ross, Z. E., Asimaki, D., Azizzadenesheli, K., “Stochastic Process Learning via Operator Flow Matching”, arXiv preprint, 2025, arXiv:2501.04126.


