海洋シミュレーションとニューラルオペレーター:物理モデルの代わりではなく、高速な代理モデルとして


こんにちは。AX研究室の Robert Hubacz です。
AIによる海洋モデリングを表した概念図。中央に「AI」と書かれた光る脳が置かれ、背景に日本海、バルト海、北大西洋の海域が描かれている。海面上のメッシュやデータ点は、海洋シミュレーションや予測に使われるデータを表している。なお、本記事で扱う4つ目の事例(ダウンスケーリング)は、ヨーロッパ周辺海域のCopernicusデータを対象としている。
海の状態を予測する技術は、航海や沿岸防災、嵐のリスク評価、さらには気候変動の分析まで、幅広い現場で必要とされています。こうした予測を長く担ってきたのが、従来型の数値海洋モデルです。数値モデルではまず、対象とする海域を格子で区切り、細かなセルの集まりとして扱います。そのうえで、各セルの内部で水の流れや海面の高さ、水温がどう移り変わっていくかを、時間ステップごとに順番に計算していきます。

この計算は非常に重く、専用の計算機を使っても数時間かかることが珍しくありません。しかも海の将来の状態は、風や気圧、初期状態など多くの条件に左右されます。そのため、条件を少しずつ変えながら、同じような計算を何度も繰り返さなければなりません。気象シナリオや初期条件を変えるたびに、シミュレーションを走らせ直すわけです。

そこで役立つのが「代理モデル(サロゲートモデル、surrogate model)」です。代理モデルは数値シミュレーションを置き換えるものではなく、予測を素早く出すために使われます。

仕組みはこうです。まず、過去のシミュレーション結果を教材にして学習します。「ある条件のもとで海流や海面水位、水温がどう変化したか」という例を大量に与えると、モデルはそこに潜む規則性を少しずつつかみ、似た条件での推移を推定できるようになります。

学習そのものには時間がかかることもあります。ただ、いったん学習を終えてしまえば、新しい条件に対する予測は、数値シミュレーションを一から回すよりもはるかに速く得られます。

ここ2年ほどの間に、フーリエ・ニューラル・オペレーター(Fourier Neural Operator, FNO)を使った代理モデルを海洋モデリングに応用する研究が、相次いで発表されました。本記事ではそのうち4つを紹介します。日本海の短期予測、海面水位を予測する OceanNet、時間の扱いを工夫した派生型 FNOtD、そして粗いデータから高解像度の海流マップを復元するダウンスケーリングモデルです。海洋分野の機械学習を網羅的にレビューするものではありません。FNO に絞ったのは、このモデル系統について、現実の海洋タスクへの応用を示す具体的な研究がまとまって出てきているからです。

Fourier Neural Operator(FNO)

Fourier Neural Operator(FNO)が入力データを複数のフーリエ層で変換し、最終的な出力へと変えていく流れを示した概略図。

Fourier Neural Operator(FNO)の基本的な働きを示した概略図。モデルは入力関数 a(x) を出力関数 u(x) に変換する。たとえば a(x) がさまざまな場所の現在の海水温を表すなら、u(x) は同じ場所の将来の海水温(明日の予測値など)を表す。Li らの論文 “Fourier Neural Operator for Parametric Partial Differential Equations”(ICLR, 2021, arXiv:2010.08895)を参考に作成。

先ほど触れたように、従来の海洋シミュレーションは計算格子の上で動きます。海域を小さなセルに分け、その格子点を中心に計算を進めるわけです。より細かい解像度の結果がほしければ、計算コストの高いシミュレーションを走らせ直すか、データを別途変換し直すのが普通でした。

FNO のアプローチはこれと違います。格子点ごとの個々の値を覚えるのではなく、物理場全体——対象とする現象を表す量が空間にどう分布しているか——どうしの関係を学びます。水温や海面水位、海流の速さの分布などがその例です。FNO が学ぶのは、ある場から別の場へと移す変換規則で、たとえば「現在の海の状態」から「次の時間ステップで予測される状態」への写像がこれにあたります。

ポイントは、FNO が場を「関数」として扱うところです。海のどこか一点を指定して問い合わせれば、その地点の値(たとえば水温)が返ってくる、という捉え方です。おかげで FNO は、一般的なニューラルネットワークほど特定の格子に縛られません。条件がそろえば、ある解像度で学習したモデルを、より細かい別の解像度でも動かせます。ただし精度まで同じになるわけではないので、そうした使い方をするたびに個別の検証が必要です。数式まで理解する必要はありません。「モデルが特定の格子に固定されていない」——ここだけ押さえておけば十分です。

FNO のもう一つの特徴が、フーリエ変換(Fourier transform)を使う点です。フーリエ変換は、海のマップをさまざまな大きさの構造ごとの成分に分解する数学の道具です。広い範囲に及ぶ海流系のような大きな構造から、局所的な渦のような小さな構造まで扱えます。多くの応用では、FNO は主に大きな構造にあたる成分を処理します。これで計算は速くなりますが、その分、細かなディテールは平滑化されたり抜け落ちたりすることがあります。

そのため FNO は、海の場の大まかな変化を素早く予測する用途には向いていますが、小さな変化や局所的な変化、急な変化が効いてくる場面では注意が要ります。

日本海の FNO:モデルは本当の海を学べているのか?

最初に紹介するのは、日本海を対象にした Choi らの2024年の研究です。単純なテスト問題だけでなく、現実の海域の一部を写し取ったデータでも FNO が通用するのか——それを確かめようとした研究です。

提案されたのは RFNO2D(再帰型 FNO)というモデルで、通常の FNO と違うのは予測を一歩ずつ進める点です。RFNO2D は直近数日分の海のマップを受け取って翌日のマップを予測し、その予測結果を入力に加えて、さらに次の日を予測します。これを1日ずつ繰り返していきます。こうした予測のやり方を自己回帰的予測(autoregressive prediction)と呼びます。

この方式には、長い期間をまとめて一気に予測しなくて済むという利点があります。半面、序盤で生じた誤りの一部が後のステップへ引き継がれてしまう、という弱点もあります。

RFNO2D が予測したのは、表層海流の東西・南北2成分の動きと、海面水位です。データは、数値モデルと観測を組み合わせた HYCOM というシステムから取りました。このように過去の海の状態を再現したものを再解析(reanalysis)と呼びます。再解析では、数値シミュレーションに、衛星やブイ、フロートなどの観測を突き合わせます。観測が足りない場所はシミュレーションが補うので、領域全体をむらなく整合的に埋めたマップが得られます。

論文では、入力日数と出力日数の組み合わせがいくつも試されました。短期の予測では過去5日分から今後5日分を、より長い予測では過去15日分から今後10日分を出す構成が、それぞれ最も良い結果でした。入力をこれ以上長くしても精度は伸びません。詳しい検証は15日入力・10日出力のモデルで行われ、最も精度が高かったのは1〜2日先の予測でした。先の未来を狙うほど、精度は落ちていきます。一方で計算は非常に速く、1秒とかかりません。

冒頭の問いへの答えは「条件つきのイエス」といったところでしょう。数日先までなら、RFNO2D は現実の海の変化をかなり忠実に学べていました。ただし結果の読み方には注意が必要です。このモデルは水温や塩分、海の三次元構造、風を考慮していません。その影響がとくにはっきり出たのが、対象海域を台風が通過したときで、このとき誤差は目に見えて大きくなりました。つまりこの研究が示したのは、すぐ実運用できる予測システムというより、高速な代理モデルとしての FNO の可能性です。

OceanNet:より長く、より安定した海面水位予測

2つ目は Chattopadhyay らの2024年の研究で、OceanNet というモデルを提案しています。

OceanNet の役割は、対象海域の海面水位の変化を予測することです。学習には、1993年から2020年までの28年分の再解析データのうち、前半26年分(1993〜2018年)を使いました。残る2019〜2020年は、精度を独立に確かめるための検証用として取り分けています。検証の舞台は、ループ海流(Loop Current)の渦が生まれるメキシコ湾と、メキシコ湾流が大きく蛇行する海域という、いずれも予測の難しい2領域です。狙いは、最長120日という長い期間にわたって、安定した海面水位予測を実現することでした。

これだけ長い予測になると、1日ずつ積み上げる通常の自己回帰的予測はリスクを伴います。わずかな誤差が次々と引き継がれ、時間とともに膨らんでいきかねないからです。そこで OceanNet は、FNO に2つの安定化の工夫を加えています。1つは predictor–evaluate–corrector という手順です。まず次の状態を予測し、そのステップを評価したうえで、修正してから先へ進みます。もう1つは正則化です。学習時にペナルティ項を加えることで、FNO 系のモデルが細かい構造を平滑化しすぎる癖を抑えます。海では、こうしたディテールは単なる「ノイズ」ではありません。渦や蛇行、水塊どうしの境目の形を左右していることがあり、モデルが早々に手放してしまうと、見かけは安定していても、物理的に大事な情報が失われている恐れがあります。

検証では、OceanNet は ROMS ベースの従来型海洋モデルと肩を並べる結果を出しました。著者らは、海面水位予測の誤差だけでなく、渦や海流といった重要な構造の形をどれだけ忠実に再現できているかも比べています。そのうえで、OceanNet の予測は従来型モデルに比べて計算コストがおよそ50万分の1だった、としています。

有望な結果ですが、著者ら自身が限界も挙げています。OceanNet が予測するのは海面水位だけで、海流や水温、塩分、より深い層の変化までは扱いません。加えて、対象海域の開いた境界から何が流れ込んでくるかという情報も受け取りません。そのため、別の海域に持っていったときや、激しい嵐のとき、さらに長い期間の予測では、精度が落ちる可能性があります。

要するに OceanNet は、安定性を意識して設計すれば、ニューラルオペレーター(neural operator)がより長いシミュレーションでも通用することを示した例です。とはいえ完全な物理モデルの代わりにはならず、狭く絞ったタスク向けの高速な代理モデル、という位置づけです。ここで次の問いが浮かびます——時間そのものを、予測ステップの単なる繰り返しではなく、アーキテクチャの一部として扱えないだろうか?

FNOtD:時間と空間をひとまとめに扱う

3つ目の Jahanmard らの研究(2026年)が、まさにこの問いに取り組んでいます。長期予測では、モデルが時間をどう扱うかも効いてくる——それを示した研究です。標準的な FNO も、過去の海の状態、たとえば連続する複数時点の海面水位分布を使えます。ただしこの場合、それらはあくまで次のステップを予測するための入力にすぎません。時間は対等な次元としてではなく、与えられたフレームの並び順として扱われているだけです。

FNOtD(FNO with temporal Dimension、時間次元を組み込んだ FNO)は、さらに踏み込んで時間を空間と対等に扱います。学習の中で FNOtD は、(標準的な FNO と同じく)海のどの地点かに加えて、どの時刻かも問い合わせられる関数を身につけます。場所と時刻を指定すれば、その物理量の値が返ってくる、という関数です。これによってモデルは、海が時間とともにどう変わっていくかの規則を、より的確につかめるようになります。

検証の舞台はバルト海で、NEMO という従来型の数値海洋モデルのデータを使いました。FNOtD はこのデータから、海面水位・表層水温・表層塩分を予測するよう学習し、30日から90日という長めの期間で、海の変化をどこまで自己回帰的に再現できるかを確かめています。この検証では、標準的な FNO は、学習データの典型から外れた海の状態が現れた途端に不安定になりました。一方 FNOtD はより長く安定を保ち、海面水位については参照モデルの NEMO により近い結果を出しました。

これも有望な結果ですが、いくつか断りが要ります。まず、この検証はすでに分かっている過去を再現したもので、最新データをもとに毎日行う予測ではありません。対象も1海域(バルト海)に限られ、学習データの期間も3年余りと比較的短いものでした。予測できた量のうち最も良かったのは海面水位で、水温と塩分は参照モデルとの一致がやや甘めでした。これはおそらく、大気との熱のやり取りなど、これらの量に強く効く大気側の条件を、FNOtD が十分には受け取っていなかったためと考えられます。したがって、このモデルを別の海域へ移すには、あらためて検証が必要です。

ダウンスケーリングモデル:粗いデータを、より精細なマップへ

ここまでの3例は予測、つまり海の状態が時間とともにどう変わるかを見積もるタスクでした。ただ、ニューラルオペレーターはダウンスケーリング(downscaling)という別のタスクにも使えます。4つ目の El Kabid らの研究(2025年)が、この応用を示しています。

ダウンスケーリングとは、データの解像度を上げることです。ここでは、粗くて情報の少ない海流マップを入力として受け取り、そこからより細かいディテールを持つ精細なマップを復元します。

検証に使ったのは、欧州の地球観測プログラムである Copernicus の海洋サービス(CMEMS: Copernicus Marine Environment Monitoring Service)が提供する、表層海流のデータです。ここでは Copernicus のサンプルを、時間情報を持たない独立したスナップショットとして扱います。

著者らはモデルの派生型をいくつか試しています。解像度の上げ方や、海流の細かな構造の取り戻し方が、それぞれ異なります。ある派生型は海流の空間的な変化の情報を使い、解像度を2倍にする場合に良い成績を出しました。別の派生型は、いったん復元したあとに誤差を補正する段階を足したもので、4倍のようにより大きく引き上げる場合に向いています。

このやり方が面白いのは、コストのかかる本格的な地域シミュレーションを一から回さなくても、海流の場の詳細度を上げられる可能性がある点です。とはいえ、足りないディテールをモデルが自由に「埋められる」わけではありません。引き上げ幅が大きくなるほど難しくなり、8倍まで上げると結果ははっきり悪化します。入力データに、最も小さな構造まで確かに復元できるだけの情報が残っていないからです。要するにモデルは、マップの詳細度を高めることはできても、入力にそもそも無い情報を生み出すことはできません。

4つのモデル、4つの異なる課題

主な違いを次の表にまとめました。モデル名をすべて覚える必要はありません。それぞれが少しずつ違う課題を解いている——そこだけ伝われば十分です。

モデル 課題 入力 出力 新しい点
RFNO2D(2024) 地域的な海洋の場の短期予測 過去15日分の表層海流と海面水位のマップ 同じ変数の今後10日間のマップの予測 自己回帰的に予測する。あるステップの結果が、次のステップの入力の一部になる
OceanNet(2024) 安定した長期の海面水位予測 初期状態としての海面水位マップ1枚(5日平均) 最長120日の海面水位予測 自己回帰的予測での誤差の増大と、細かい構造の平滑化しすぎを抑える仕組みを FNO に組み合わせた
FNOtD(2026) 長期予測 過去の海の状態の短い2日分の系列と、大気条件に関する基本的な(不完全な)情報 最長90日の海面水位・表層水温・表層塩分の予測 時間を次のステップへの入力の列として扱うのではなく、時間と空間をより強く結び付けている
ダウンスケーリングモデル(2025) 低解像度データからの細かい構造の復元 低解像度の海流の場 2〜8倍の解像度に高めた海流の場 ニューラルオペレーターをダウンスケーリングに使えることを示した

この4つは、1つの手法が段階的に発展したもの、と捉えるべきではありません。むしろ、海洋学におけるニューラルオペレーターの4通りの使い道です。

ここから何が言えるのか

これらの研究が示すのは、ニューラルオペレーターが単一の万能な「海洋モデル」ではない、ということです。短期予測、安定した長期予測、データの高解像度化——そうした具体的なタスクごとに使い分ける、道具の集まりだと考えるほうが実態に近いでしょう。

同時に、はっきりした限界も見えます。今回取り上げたモデルは、主に表層の場と特定の海域が対象です。海の完全な三次元構造や、正確な境界条件、極端な現象、そして学習データから大きく外れた状況は、いまなお課題として残っています。

ですから、妥当な結論は「海洋学の代わりに AI を」ではありません。より現実的なのは、物理モデルとニューラルモデルを慎重に組み合わせることです。数値モデルはこれからも基準であり続け、ニューラルオペレーターは、十分に検証された範囲で使うかぎりにおいて、特定の計算を速くしてくれます。FNO だけで海洋分野のニューラルネットワークの話が尽きるわけではありませんが、予測、長期シミュレーションの安定化、データの高解像度化という実践的なタスクで、このアプローチがどう働くのかをよく見せてくれます。

参考文献

取り上げた論文:

  • Chattopadhyay, A., Gray, M., Wu, T., Lowe, A. B., He, R., “OceanNet: a principled neural operator-based digital twin for regional oceans”, Scientific Reports, 14, 21181, 2024, doi:10.1038/s41598-024-72145-0.
  • Choi, B.-J., Jin, H. S., Lkhagvasuren, B., “Applications of the Fourier neural operator in a regional ocean modeling and prediction”, Frontiers in Marine Science, 11, 1383997, 2024, doi:10.3389/fmars.2024.1383997.
  • El Kabid, A., Benabbou, L., Lguensat, R., Hernández-García, A., “Multiscale Neural PDE Surrogates for Prediction and Downscaling: Application to Ocean Currents”, arXiv preprint, 2025, arXiv:2507.18067.
  • Jahanmard, V., Hordoir, R., Ramezani-Kebrya, A., Ellmann, A., Delpeche-Ellmann, N., “Principled Fourier neural operators for high-resolution regional ocean modeling”, Journal of Geophysical Research: Machine Learning and Computation, 3, e2025JH001131, 2026, doi:10.1029/2025JH001131.
  • Li, Z., Kovachki, N., Azizzadenesheli, K., Liu, B., Bhattacharya, K., Stuart, A., Anandkumar, A., “Fourier Neural Operator for Parametric Partial Differential Equations”, ICLR, 2021, arXiv:2010.08895.

本記事で言及したモデルとデータ:

  • Copernicus Marine Service, “Global Ocean Physics Analysis and Forecast”, 2025, doi:10.48670/moi-00016(ダウンスケーリング研究で使われた表層海流データ).
  • HYCOM — HYbrid Coordinate Ocean Model, hycom.org(RFNO2D の学習・検証に使われた再解析データの基盤).
  • NEMO — Nucleus for European Modelling of the Ocean, nemo-ocean.eu(FNOtD の学習・検証データの基盤および参照モデル。データは NEMO に基づくプロダクト Copernicus Marine Service, “Baltic Sea Physics Analysis and Forecast”, 2021, doi:10.48670/moi-00010 として提供).
  • ROMS — Regional Ocean Modeling System, myroms.org(OceanNet の学習データの基盤および比較対象の数値モデル).

※本記事内の画像は生成AI(ChatGPT、Gemini)を用いて作成しています。