「やさしい日本語」でグローバルチームのコミュニケーションを円滑に


こんにちは! デバイスソフトウエア開発部の米森です。

グローバル化が加速する現代において、国境を越えたビジネス連携は不可欠です。エコモットも、海外の協力会社との連携や、外国人メンバーとの協働の機会が少しずつ増えています。このような状況下で、言語の壁はビジネスの効率性や成果に直接的な影響を与える重要な課題です。

ということで今回は、外国人との日本語コミュニケーションをより円滑にするための考え方として、「やさしい日本語」 というアプローチを紹介します。「やさしい日本語」は、災害時の情報伝達を目的として考案された、外国人にも理解しやすい配慮の行き届いた日本語です。その考え方は、多文化共生社会におけるコミュニケーションの基盤として、ビジネスの現場においても役立つ部分は多いはずです。 普段私たちはあまり意識することはありませんが、日本の行政も「やさしい日本語」について情報発信をしています。

これらの情報や、私の前職(外国人向け日本語教師)の経験を踏まえながら、「やさしい日本語」の視点を取り入れたコミュニケーションの改善策を探っていきます。

なぜ「やさしい日本語」か

上述の通り、ビジネスの場面で外国の方と触れる機会は増加しています。グローバルなプロジェクト、海外の協力会社との連携、そして多様なバックグラウンドを持つチームメンバーとの協働は、現代のビジネスシーンにおいて日常となりつつあります。

このような状況下で、効果的なコミュニケーションは、プロジェクトの成功、チームの連携強化、そして最終的なビジネス成果に直結する重要な要素です。 しかし、私たちが普段何気なく使用している日本語は、外国人にとっては多くの課題を抱えています。複雑な敬語、文脈依存の強い曖昧な表現、そして文化的な背景を必要とする比喩や慣用句などは、日本語学習者にとって大きな障壁となり得ます。言葉の壁は、誤解やコミュニケーションロスを生み出し、ビジネスの効率性を損なう危険があります。

そこで注目すべきが「やさしい日本語」です。「やさしい日本語」は、単に簡単な言葉を選ぶだけでなく、誰にでも分かりやすいように配慮された日本語です。文法構造を簡潔にし、曖昧な表現を避け、具体的な言葉を選ぶことで、言語的な背景が異なる人々との間でも、正確かつスムーズな情報伝達を可能にします。 グローバルプロジェクトでは、言語の壁を解消するために通訳や翻訳の専門家を雇用したり、外部に依頼したりするケースが少なくありません。しかし、「やさしい日本語」がチーム内で共通のコミュニケーション基盤となれば、これらのコストを大幅に削減できる可能性があります。日常的な情報共有や簡単な打ち合わせであれば、「やさしい日本語」で十分に対応できる場面が増え、業務コミュニケーションの幅が広がるはずです。

「やさしい日本語」適用例のご紹介

以降は、「やさしい日本語」の適用例を実際の業務で使いそうな例文を用いて紹介します。

過剰な敬語は避けて「です・ます」で話す

「この実装課題ですが、こちらで進めさせていただいてもよろしいでしょうか?」

この文章は、とても理解が難しいです。

まず「こちら」が誰・何を指しているのかが曖昧です。「私」や「私たち」ときっぱりと言ってしまうか、チームの名前などの共通呼称があるのであれば、「クラウドチーム」のように固有名詞を使うのもありです。

次に「させていただく」は非常に高度で難易度が高い文法要素なので、使用は控えます。難しい理由は、「結局誰がやるのか?」が直感的に分からないからです。 例えば、以下の2文を考えます。

  • 「準備させていただきます」
  • 「準備していただきます」

これらの文で「準備」を実際に行うのは、前者は話し手で、後者は聞き手です。日本語に慣れ親しんだ人であれば、すぐに判断できますが、初級者・中級者の場合まだ難しいです。

最後に「でしょうか?」です。多くの場合、外国人は「です・ます」調を最初に学習します。理由はいろいろありますが、一番は活用が簡単だからです。

例えば、「飲む」という動詞を考えたとき、「です・ます」の場合は

  • nomi-masu
  • nomi-masen
  • nomi-mashita
  • nomi-masendeshita

のように、「語幹 + 活用語尾」という構造が綺麗に現れますが、ため口だと

  • nomu
  • nomanai
  • nonda
  • nomanakatta

のように、規則性がありません。しかも、動詞の種類によって活用が変わるので、なかなか大変です。尊敬語・謙譲語は言わずもがな複雑です。

こういった理由から、多くの場合外国人学習者は「です・ます」調の日本語に一番慣れているので、こちらもなるべく「です・ます」で文を終わらせるようにします。「でしょうか」は結構な発展レベルなので使用は控えます。

以上をまとめて、例文をやさしい日本語に翻訳すると、

「私がこの実装課題を進めてもいいですか?」

などが分かりやすくていいかなと思います。

二重否定は避ける

「この実装はできないわけではないです」

二重否定は日本人同士のコミュニケーションにおいても理解の妨げになりますね。ただ、二重否定を使うことで、否定のニュアンス・度合いを調整できるというメリットもあります。その細かいニュアンスを伝えたい場合は、一つ一つ順番に伝えます。

今回の発話例で話者が伝えたいことは、

  • 可能か不可能かの2択だったら、可能である
  • だが、諸事情があって難しい

に分けられます。これをやさしい日本語にすると、

「この実装はできますが、時間がないので難しいです」

のようになります。ちょっと不自然な感じがしますが、断然分かりやすいです。

実は、先に参考資料として挙げた「在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインほか」でも、やさしい日本語を目指す第1ステップは「日本人(この章では、日本語ネイティブ(日本語母語話者)を表します。)にわかりやすい文章(※)」にすることであるとされています。「外国人との日本語コミュニケーション」というものを考える前に、まずは誰にでも分かりやすい日本語を心がけるのがよさそうです。

 

※「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」 p6

「~たり」のような曖昧な表現は避ける

「このタスクお願いできたりします?」

質問や依頼などをするとき、あまりにもストレートすぎる言い回しだと失礼で押しつけがましいという印象を与えてしまうのではないかという懸念から、「たり」のような言葉を使ってしまいます。そのような気遣いももちろん大事ですが、正確にコミュニケーションをすることも同じくらい大切です。

なので、きっぱりと

「このタスクお願いできますか?」

と言うほうが分かりやすいです。

曖昧な表現の他の例として、「感じ」があります。

「これもう終わった感じですか?」

これも先ほど同様、曖昧な表現を抜いて、

「これはもう終わりましたか?」

としましょう。 これらの表現に共通なのは、上述した通り相手への気遣いから来る婉曲性です。コンピュータ言語にはなく、自然言語特有の特徴で私は好きなのですが、日本語非母語話者とコミュニケーションするときは程々にしておきます。

疑問文の「か」を忘れずに

「これ、終わりました?」

書き言葉であれば、「?」マークがあるので、この発話が疑問文であることは一目瞭然です。

しかし、これが話し言葉の場合、平叙文と疑問文の区別は話者のイントネーションに依存します。 どれくらいのイントネーションの上がり具合で疑問文と判断されるかの閾値は恐らく言語ごとに違うので、必ず「か」を文末につけるようにします。「か」をつけて、シンタックス的に発話が疑問文であることを明示し、イントネーションも上げることでさらに分かりやすくします。 些細な違いですが、コミュニケーションの円滑化に大きく寄与するはずです。

最後に

いかがでしたでしょうか。英語やメンバーの母語を共通語として導入するのはハードルが高いですが、今回紹介した点を意識して話すのはそこまで難易度は高くありません。小さな工夫で、大きな変化を実現できると思いますので、ぜひ取り入れてみてください!

 

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