こんにちは!
SJC共同開発推進室の鈴木です。
前々回の記事、前回の記事とHome Assistantの記事を投稿させていただきました。今回も引き続き、Home Assistantをテーマに、その活用事例をご紹介します。
今回は、「農業分野」に焦点を当て、ビニールハウスを例に、温度と湿度の実測データから「飽差」という、空気中に「あとどれだけ水蒸気を含むことができるか」を表す値を求めるテンプレートセンサというものを作成し、Home Assistantで「仮想データ項目」として扱う方法をご紹介します。
今回の流れを通して、農業分野へのIoTの活用をご紹介するとともに、Home Assistant上での新しいデータ項目作成の考え方などもご紹介できればと思います。
目次
1.飽差とは
まず、前提として、「飽差」とは、空気中に「あとどれだけ水蒸気を含むことができるか」を表す値で、植物の蒸散や光合成に密接に関わる重要な環境指標です。
飽差が高すぎると(空気が乾燥しすぎると)植物は水分を失わないように気孔を閉じ、光合成が止まってしまいます。逆に低すぎると(湿度が高すぎると)蒸散が起こらず、根からの吸水が滞ります。
つまり、農業の分野においては、飽差は植物の「呼吸バランス」を示すようなもので、ハウス栽培ではこの値を適切に保つことで、健全な生育や病害の予防をすることができます。
一般的には、飽差 3〜6 g/m³ が理想的な範囲とされております。
- 飽差が高すぎる(6 g/m³以上) → 植物は水分を失いやすくなり、気孔を閉じてしまう
-
飽差が低すぎる(3 g/m³以下) → 蒸散が行われず、生育が滞る
飽差の算出方法に関しては、少し複雑のため、本記事では省略させていただきますが、以下の記事が参考になるので、ご興味ある方はご確認ください。
飽差とは? ハウス栽培に欠かせない飽差管理と計算方法を解説
2.作成したダッシュボード
今回は、前回同様に、温湿度センサを3か所に配置し、温度、湿度、飽差を可視化するため、以下のようなダッシュボードを作成しました。
本ダッシュボードを活用することで、ハウス内の様子を可視化することができるため、現場から離れていても常に様子を確認できます。

実装する際に使用した温湿度センサやMAPに関しては、過去2回のブログでご紹介したものと同じ構成のセンサで、同じ機能を使用しておりますので、ご興味ある方は、以下のリンクからご確認ください。
3.テンプレートセンサの概念
今回は、「飽差」という新しい第三の値を温度と湿度から求めますが、その際に、Home Assistantでは、テンプレートセンサという新しい仮想項目を利用します。
まず、前提として、Home Assistantの中で、データは以下のように扱われます。
| 概念 | 意味 |
|---|---|
| Device(デバイス) | 物理的なセンサや機器(例:SwitchBot温湿度計、ESP32などのマイコンで作成した自作センサ) |
| Entity(エンティティ) | 温湿度計のデバイスを登録した場合、そのデバイスは、温度と湿度の2つのエンティティを持っているということになります。(例:sensor.greenhouse_temp(エンティティID)) |
| domain(ドメイン) | そのエンティティは「どんな種類のものか」(例:「Sensor」の他に、「Switch」、「Light」、「Binary_sensor」などがあります) |
飽差のテンプレートセンサは「センサ(Sensor)」ドメインのエンティティとなり、
温度と湿度から新しい仮想項目(飽差)を生成しているということになります。
| ドメイン(種類) | エンティティIDの例 | 内容 |
|---|---|---|
Sensor |
sensor.greenhouse_temperature |
数値や状態を観測する(温度、湿度、飽差など) |
Switch |
switch.greenhouse_fan |
ON/OFFを制御する機器 |
Light |
light.greenhouse_led |
照明の状態 |
Binary_sensor |
binary_sensor.door_open |
開閉や有無などの2値データ |
今回は以下のように、YAML形式の設定ファイルを追加して反映させており、温度「sensor.greenhouse_temperature」と湿度「sensor.greenhouse_humidity」のように、固有のエンティティIDを飽差の公式に当てはめて、実測データを基に、第三の値である飽差を算出しております。
|
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 |
template: - sensor: - name: "飽差(VPD)" unit_of_measurement: "g/m³" state: > {% set T = states('sensor.greenhouse_temperature') | float %} {% set H = states('sensor.greenhouse_humidity') | float %} {% set es = 6.1078 * e ** ((17.2694 * T) / (T + 237.3)) %} {% set ea = es * H / 100 %} {% set vpd = (es - ea) * 216.7 / (T + 273.15) %} {{ vpd | round(2) }} |
4.活用するメリット
このダッシュボードを活用することで、以下のメリットがあると考えられます。
また、実際に過去に今回のHome Assistantでのシステムとは異なりますが、室内での水耕栽培やビニールハウスでの農家さんに飽差をご活用いただいたことがあり、それらを踏まえてメリットなどをまとめました。
作物の「今の状態」が一目でわかる
温度や湿度の数値だけでは、植物が「乾きやすい状態」なのか「蒸散しにくい状態」なのかを直感的に判断するのは難しいですよね。
飽差を可視化することで、植物が置かれている環境の「体感」を数値化できるようになります。
→ たとえば飽差が7g/m³を超えていれば「乾燥傾向」、3g/m³を下回っていれば「過湿傾向」とすぐに判断できます。
灌水・換気・加温などの制御判断がしやすくなる
飽差は「水を撒くべきか」「換気を増やすべきか」を判断するうえで非常に実用的な指標です。
Home Assistantの自動化(オートメーション)と組み合わせれば、
飽差が高い(乾燥している)→ 植物が水を失いやすくストレス状態 → ミストを作動
飽差が低い(湿気が多い) → 蒸散が起きにくく光合成効率が低下 → 換気して湿気を逃がす(窓を開ける)
といった自動環境制御も可能になります。
結果として、植物のストレスを減らし、成長を安定化させられます。
データを蓄積して「経験」を数値化できる
飽差の推移をグラフ化しておくと、「収量が多かった時期」や「病害が発生した時期」との関係を分析できます。
これにより、経験的な「勘」に基づいて判断でき、次年度以降の環境設計に活かせます。
まとめ
今回は、Home Assistantでテンプレートセンサの内容を兼ねて「農業分野」でのビニールハウスを例に、温度と湿度の実測データから飽差を算出し、活用方法をご紹介させていただきました。飽差は「水を撒くべきか」「換気を増やすべきか」を判断するうえで非常に実用的な指標ですので、飽差を活用して、農業分野での自動化も進めていきたいと思っております。そのため引き続きシステムをアップデートして、今後の取り組みについても、また改めてご紹介いたします。
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